付き馬屋おえん



平成17年度松竹特別公演「付き馬屋おえん」

平成17年度松竹特別公演「付き馬屋おえん」

江戸は吉原で「喜の字屋」という仕出し屋を商いとしている美貌の娘が、裏では「付き馬屋」を稼業としています。欲望渦巻く色里で女郎と遊んだ揚げ代を払わないあくどい男どもからそのツケを取り立てるのが付き馬屋の仕事です。実際の付き馬屋はかなり手荒な事もした、大抵男の仕事でしたが、原作者の南原幹雄がこの職業を美しい女性に設定した事で、昭和五十三年に小説が発表されて以来小説のシリーズ化はもとより、テレビ化・舞台化され上映上演を重ねてきた大ヒットシリーズです。

主人公のおえんはテレビ・舞台共、山本陽子只一人の当たり役で、きりりとして艶やかな容姿とピタリ重なり、娯楽時代劇には数少ない魅力あふれるヒロインとして御馴染みになっております。

全国公演としては前回平成十三年以来二回目として颯爽と登場。今回は原点に戻りおえんがこの裏稼業を父親より継承する経緯を描いた「女郎蜘蛛はわらう」をお贈り致します。勧善懲悪の時代劇に登場する大悪が女性という設定も珍しく、女同士の戦いも見逃せません。

【あらすじ】

喜の字屋の一人娘・おえん(山本陽子)は、履物屋上州屋の跡取り息子伊之助(川 麻世)と相思相愛で、夫婦になることを誓い合うが、親一人子一人の為、父仁兵衛には言い出しかねていた。そんなおえんの胸の内も知らず、仲良しの呉服屋の娘・おしま(山村紅葉)は、反物を持ち込んで、おえんの婚礼衣裳の品定めを買って出る。そこへ仁兵衛が戻って来て、大慌てで反物を隠すはめとなった。

ところが仁兵衛はおえんに、今日限り『裏稼業』を止めると告げた。「嫁入り前の娘を持つ親のすることじゃねえ、今、上州屋へ行って伊之助との婚儀を決めてきた」と語る父の慈愛に、おえんは胸を打たれ感謝するばかりであった。

折もおり、新五郎(若林豪)が付き馬屋の仕事の客を連れてきた。藤ノ屋の花紫という花魁に百両以上もの借金がある男から金を取り立ててほしいとの依頼であった。そしてその男とは誰あろう上州屋の伊之助であった。新五郎は、その仕事は自分にやらせて欲しいと懇願した。おえんに片思いしていた新五郎は、おえんを悲しませる男を許せず、表沙汰にして伊之助の卑劣な行いを暴きたかったのだ。しかし仁兵衛は、おえんに知られぬよう密かに解決したかった。おえんを思いやる互いの考えがぶつかり、立腹した仁兵衛は、新五郎に縁切りを言い渡した。結局、仁兵衛は伊之助の借金を請け負ってやることにした。

数日後の宵、金を渡しにやって来た仁兵衛は何者かに殺され、遅れてやって来た伊之助も襲われ、気が付いた時はその手に血の付いた匕首が握らされていた。愕然とした伊之助は、その場を逃げ去るのであった。

一ト月後、仁兵衛の墓前におえんの姿があった。たたずむおえんに声を掛けたのは吉原面番所同心の村木鉄平(中山仁)である。おえんに好意を寄せる村木は、仁兵衛殺しは侍の手練れ者の仕業であることを告げ、仇討ちなどと変な気を起こすなと助言して去って行く。そこへ新五郎が仁兵衛の死を知り、墓参りにやって来る。新五郎の慰めの言葉に、済んだ事は後悔しても仕方が無いと言いきったおえんは、喜の字屋の店と裏稼業の付き馬屋を継ぐ決心を告げ、父親の仇を討つつもりでいる事を打ち明けるのだった。

ここに『付き馬屋おえん』が誕生した訳だが、はたしておえんは父・仁兵衛の仇を討つことが出来るのであろうか?また、事件の現場にいた恋人の伊之助は本当に犯行に関わりは無いのか?

事件を追及するうちにおえんは女郎蜘蛛の異名を持つ美しく妖しげな女・およう(三林京子)と出会うのであった。


キャスト
山本陽子
若林 豪
中山 仁
三林京子
川崎麻世
山村紅葉
甲斐京子
笠原 章
桐山浩一
菊池敏昭
崇勢弘晶
那智ゆかり

スタッフ
原作● 南原幹雄
脚色● 田中喜三
補綴・演出● 金子良次
美術● 大野 泰
照明● 北内隆志
音楽● 橋場 清
効果● 高口 寛
殺陣● 谷明 憲
演出助手● 安部晴治
舞台監督● 古山昌克
同● 小柳津暁生
演出協力● 成瀬芳一
制作● 松本康男
同● 松井 寛
同● 本田景久
制作協力● 大迫辰己
製作松竹株式会社